〈MILAI〉の鈴木晶友&中川紘司が語るGLOBE40への挑戦 後編

2023.06.15

ダブルハンド世界一周ヨットレース「GLOBE40(グローブ40)」を完走したチーム〈MILAI〉(クラス40)。スキッパーの鈴木晶友さんと、チームオーナーでコスキッパーの中川紘司さんの2人に日本でインタビューを実施しました。その後編をお届けします。前編はこちらからどうぞ。

 

リタイアする可能性

――第6レグで未確認浮遊物(UFO)と衝突した時に、残り全てをリタイアする選択肢はあったのでしょうか。
鈴木:ありました。ぶつかったという一報の後に紘司さんに電話して、「入港しても修理は無理だから、貨物船に載せてフランスに帰ることになると思います」と話したんです。それが海の上での最初の印象というか、仮決定でした。

――連絡を受けたときの心境を教えてください。
中川:まずは安全であってほしいというのが全てです。マサは何でも報告してくれましたが、マサが危ないと思ってフネを捨てるとか、港に戻るとか、そういうのはスキッパーのマサが決めることで、海の上ではマサの意見が絶対であると、そこはぶれないようにしていました。

――再スタートすると決断したのは、入港してからですか。
鈴木:海の上で諦めちゃダメだと切り替えました。クラウドファンディングに協力してくれた方とのLINEグループがあるんですけど、たくさんメッセージをもらって励みになりました。次に、アルゼンチンに入港した後にできることを、マル・デル・プラタに向かいながらいろいろ調べました。

 

残り日数を数え続ける

――長いレース中、どう自分の気持ちを盛り上げたのでしょうか。
鈴木:自分自身とチームの盛り上げ方の二つあります。自分のほうは毎時間、フィニッシュまであと何日か、艇速と残存距離で計算すること。例えば2週間のレースだとして、2日たてば1/7終わる、3日たつと1/5くらい。「もう1/5終わったんだ」って思えるようにマインドコントロールをしました。チームのほうは、レグによってメンバーが変わって、言語も性格も違うんですけど、2人でいい雰囲気を作ろうというのが前提でした。海の上だと2時間交代なので、実はそんなに接点がないんです。僕が起きたら紘司さんが寝て、紘司さんが起きたら僕が寝るサイクルなので。
中川:すれ違いだったよね。
鈴木:交代のときは、何があったとか、「風がこうだから気をつけましょう」とかそういう話をします。あとは「何食べました?」とか。雰囲気良かったですよね?
中川:ん? うん(笑)。

――紘司さんは、気持ちの切り替えはどのようにされたのでしょう。
中川:僕はそもそも外洋に慣れていなかったので、最初の頃は寝るたびに大きい黒いボールに追いかけられる悪夢しか見なかったんです。寝ても起きても地獄という状態。グローブ40本戦が始まる頃には見なくなりました。寝ることが一番のリラックスでしたね。2時間寝て、元気になって、仕事すると。

 

このインタビューは、中川紘司さんが副社長を務めるPHONE APPLIの会議室で実施した。笑いが絶えない2人
photo by Shigehiko Yamagishi / Kazi

 

寄港先で受けた厚い協力

――フィニッシュ直後、「一番の思い出はいろいろな人に出会えたこと」と仰っていました。いま真っ先に行きたいところはどこですか。
鈴木:ケープタウンとオークランドとマル・デル・プラタ。特にマル・デル・プラタでの修理のおかげで今ここにいられます。とにかく何でも、予定にないことで急じゃないですか。それなのに暖かく迎えてくれて。ケープタウンでは入港を決めて実際に入港するまで2日しかなかったですが、着いたときにはIMOCA60も載せられる共用船台を用意してくれていて、外洋セーラーに対して 、できることを全部やってあげようっていう精神があるのだと思います。
中川:僕は乗ったのが3レグなので、行き帰り含めて6カ所寄ったんですね。幸先が良かったというのもあって、カーボベルデが特に印象深いです。みんないい人たちで、タクシーで「細かいのないから取っといて」とお金を渡したら、そんなに大きな金額じゃないのにドライバーが「こんなにもらえない!」ってスーパーにダッシュして、両替して戻ってきたんです。
鈴木:紘司さんは地元の方に手作りのぬいぐるみをもらいましたよね。1回それは日本に持って帰ったんですけど、紘司さんと乗るレグはトップフィニッシュするから縁起がいいので、また持ってきてもらったんです。紘司さんと乗った第4レグも幸運で、ボラボラ島を回るときに一つ雲が発生して他の船と違う角度で走れたから追いつけて、ミートしてからの最後の24時間は寝ずに頑張ったので、それは実力かなと。
中川:7分差だったもんね。

 

第4レグ終盤、〈AMHAS〉とのデッドヒートの末、7分差でトップフィニッシュした。鈴木さんの左に見える点が〈AMHAS〉
photo by Koji Nakagawa / MILAI Around The World

 

この経験を広く伝えたい

――他チームとは連絡を取っていますか?
鈴木:ワッツアップで。この前は「バーベキューするからおいでよ」って連絡が来たんですけど、アメリカで(苦笑)。一つの良い絆ができましたね。世界一周を助け合って、海では絶えず連絡を取り合って、元気と勇気を与えあって、陸では困ったら物の貸し借りをして。素晴らしいコミュニティーができました。

――フランス現地のセーリング文化を目の当たりにして、日本でもっと裾野を広げるために参考になることはありますか。
鈴木:たくさんあります。例えばレースがあったとして、セーラーだけが結果を知っているようなイベントでなくて、現地の人たちも身近に感じるようなイベントにするとか。
中川:マリーナが開かれた場所になっていて、普通の人が散歩がてらレースを見に来るんですよ。そういうところからかなと思いますね。

――今後の目標や夢を教えてください。
中川:僕はやりきったので、次世代を応援したいですね。自分がこうして挑戦できたのも奇跡的なことなので、自分だけのものにせず、他の人もチャレンジできるようにサポートしたいです。
鈴木:具体的なことは決まっていませんが、シングルハンドかダブルハンドで挑戦は続けたいです。今回、寄る予定のなかったケープタウン、マル・デル・プラタ、最後に紘司さんと乗るためにアゾレス諸島にも寄った。仮にこれがヴァンデ・グローブだとしたら、3回リタイアしたことになります。無寄港無補給で世界一周することの大変さも感じ、すごくいい経験になりました。だから、辛さが分かるからこそ、すぐにヴァンデ・グローブやりたいなどとは言えません。まずはこの経験を日本のセーラーの方々に伝えたい、学生の皆さんにもこの素晴らしさを広めていきたいと思っています。

 

■GLOBE40
公式サイト:https://www.globe40.com/
トラッキング:https://www.globe40.com/en/map-tracker/
Facebook:https://www.facebook.com/globe40

■MILAI
公式サイト:https://milai-sailing.com/
Faceboook:https://www.facebook.com/milai.aroundtheworld

 

(文=森口史奈/Kazi編集部 写真=森口史奈/Kazi編集部、MILAI Around the world、山岸重彦/舵社)

 

※この記事は、2023年の『Kazi7月号』の「グローブ40総復習 〈MILAI〉の鈴木晶友、中川紘司インタビュー 174日、世界一周の遥かなる旅路」を増補・再編集したものです。7月号のお求めはこちらから。

 


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