太平洋単独往復横断を2021年8月に成し遂げた、フリーキャスターで海洋冒険家の辛坊治郎さん。太平洋往復横断の相棒だった〈カオリンⅤ〉(ハルベルグラッシー39)を売却後、新たに木造中古艇を手に入れると共に「次の旅」の計画を練ってきた。そのフネのレストアが終わり、次なる旅のテーマである「日本全国の有人島制覇の旅」に出航した。
※トップ写真は出航前、愛艇〈カオリンVII〉の前で記念写真に納まる辛坊さん
日本のエーゲ海と称される、岡山県瀬戸内市牛窓町の海。牛窓を象徴する白い建物のホテルリマーニ前を〈カオリンVII〉がさっそうと過ぎゆく
26ftの新たな相棒〈カオリンVII〉
辛坊さんから「新たな相棒の26ftの中古木造艇〈カオリンVII〉のレストアが終わったので、日本にある有人島全島を巡る船旅に出発します」と聞き、その出発地となる岡山県備前市の片上湾にある波止場を、4月16日午前に訪れた。
完全レストアされてグリーンの船体が映える〈カオリンVII〉は、もはや船齢8年という中古感は全くなく、まるで新艇のようだ。デッキにはチーク、船体にはマホガニーの木材が使われている。
出航前に岡山県の地元メディアのスタッフから意気込みを聞かれると、「太平洋横断ではないですからね。のんびり楽しみながら、ゆっくり有人島を全島巡りたいですね」と答え、仲間と共に愛艇に乗りんだ。ほどなく出航し、岡山県瀬戸内市にある岡山県牛窓ヨットハーバーまで機走で約2 時間かけて向かった。
〈カオリンVII〉を操船する辛坊さん。「やっぱり周囲に景色が見えるといいですね」と話した
レストアを終えた愛艇に乗るのは初めての辛坊さん。新しい相棒の乗り心地を確認しながら、風光明媚な瀬戸内海の景色も楽しむ。狭い海域を抜けて岡山県牛窓ヨットハーバー沖でセールアップし、帆走性能も確認した。この日は「全有人島制覇の旅への出航」ではあるが、本格的な航海を前にした「愛艇の試運転」という位置付け。太平洋を命懸けで往復横断した海の男の安全意識は極めて高い。
岡山県牛窓ヨットハーバーでのランチタイムを挟み、午後にも愛艇の性能を確認。夕刻を前に、同ハーバーに係留させた。
辛坊さんは東京のラジオ局での仕事を続けながら、全部で416あるとされる、人が住む日本の離島をヨットで巡る「全有人島制覇の旅」に「通う」という。
太平洋横断後の気ままな航海
「まずは備前市を出航し、しばらくは岡山県牛窓ヨットハーバーを拠点にして、有人島をのんびり巡るつもり。それからは瀬戸内海を西に進んで九州を訪ねます。行き先として、友人がいる大分県と長崎県に行くことだけは決定してます。それから先は沖縄方面かな」と辛坊さんは話し、航海計画が「気ままな船旅」であることがわかる。
一方で「有人島を全島巡る」という定義については厳密だ。島巡りの方法について辛坊さんは「瀬戸内海であれば、1回のクルージングで10島くらいは訪ねられると思うんです。でもね、有人島でも港が整備されていなかったり、浅瀬でヨットが接近しにくい島もありますよね。そのため、着岸できそうにない場合は、島に接近して一周することで『1 島クリア』としたいと思っています」と笑顔を見せる。
「そうは言っても、できるだけ上陸したいじゃないですか。そのためのテンダー(足船)も用意します」とも話し、取材時にはまだ用意されていなかったが、2馬力の船外機を取り付けることができるテンダーを愛艇に搭載する予定であることを語った。
フネと人、かけがえのない多くの仲間に囲まれた辛坊さんの〈カオリンVII〉による新たな船旅が始まった
辛坊さんの船旅は途中で寄港しながらの航海となるが、どこに寄るかは辛坊さんの気分や興味次第だ。牛窓町から大分市まで、有人島は約130。しまなみ海道や芸予諸島をはじめ、珠玉の島々に富み、泊地あふれるゲレンデとなっている
(文・写真=Kazi編集部/友田享助)
※辛坊さんの航海についての詳しい記事は、毎月5日発売の月刊『Kazi』2021年5~11月号、2022年4、6、7月号に掲載しています。ご興味のある方は、全国書店またはこちらからお求めいただけます。
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