北西航路横断へ出立し、1stレグに帆を揚げた43フィート木造ヨット〈インテグリティ〉。カナダ・ノバスコシア(Nova Scotia)州ルネンバーグ(Lunenburg)からグリーンランド(Greenland / KalaallitNunaat)とカナダ北極圏を経由し、アラスカへ向かう。そして、最初の夜間航海に差し掛かっていた・・・(編集部)。
◆メインカット
photo by Will Stirling | ラブラドル海に沈む夕日。双眼鏡を手にウォッチを行う。北西航路横断の航海はまだ始まったばかりだ
【短期集中連載】北西航路を走破した43フィート木造ヨット〈インテグリティ〉の大航海
①北西航路の歴史
②砕氷帆船の建造
③アイスランドでの5年間
④冒険の準備
⑤ルネンバーグからグリーンランドへ
チャートテーブルのナビゲーションスペース。今回の航海は基本的に天測で進む。したがって、出航まえに国際VHFの緯度経度表示画面にテープを貼って見えなくした
真鍮製のマストウインチにビレイピン(ロープをクリート留めの様にできる帆船艤装)。すべての艤装はよく手入れされている
ハルを塗装する前の〈インテグリティ〉。アイスランド・フーサビークにあるノースセーリング社で整備をした
〈Integrity〉諸元
デッキ長:43フィート
水線長:37フィート
喫水:7.6フィート
メインセール:675平方フィート
カナダ・ノバスコシア(Nova Scotia)州ルネンバーグ(Lunenburg)を出航。グリーンランド(Greenland / KalaallitNunaat)へと向かう航路図
Transit of the North West Passage(北西航路横断)
船上での最初の夜
出航後、暗くなるまでに、私たちはノバスコシアの沿岸を猛然と進んでいった。4人の乗組員は二つのウォッチに分かれ、当直中は1人が操舵し、もう1人が排水用のポンプを担当した。小型の電動ビルジポンプはその能力の限界に達し、さらに、非常用にと組み立て直したポンプ(エンジンで駆動させる)も壊れてしまった。
そのため、オフウォッチのチームが10分に1回、手動ポンプでビルジを汲み出すというローテーションが組まれた。船上での最初の夜、私たちは20マイルを走った。残るは6,000マイル。船酔いはなかったが、目の前の仕事に対する嫌悪感は誰にもあった。
残念なことに、私たちの船は前年の秋にグリーンランドからルネンバーグのボート修理工場まで帆走してきたときよりも、コンディションが悪くなっているようだった。クルーの名誉にかけて言っておくが、問題はその工場の仕事にあった。
最も差し迫った問題は、張り直しをした舷側上部だった。その隙間からの浸水がひどい。ちなみに、不平だらけの私だったが、その中でもっとも些細なことはというと、登山用ブーツが不可解にも酸で溶けてしまったことだった。
外は暗く、風が強まって波も高くなり、浸水は続き、ガフの付け根(jaw)は外れて空中に漂っていた。このとき、差し迫った問題を解決するためにどこかに「避航してはどうか」という控えめな提案がなされた。一見、これは賢明な提案だった。しかし、風は強く、すぐに入れる港も近くにはないため、まずは一つ一つ問題に取り組んでみて、それから再考したほうがいいと私は感じていた。
その人里離れた漁港の岸壁に我々がたどり着いたのは100マイルをひたすらに走ってのことだった。親切な漁師が待っていたかのように数匹のロブスターを我々に施してくれ、私たちは必要なところから艤装をやり直した。次々に現れる問題の数々、それを解決できないとすれば、どうやって北西航路横断などという難題に取り組むことが出来るというのか、つくづく思い知らされたのだった。
クルーの中に船大工が何人かいることの利点は多い。6月の半ばまでに船はもと通りの第一級のコンディションに戻り、その頃にはラブラドル(Labrador)とニューファンドランド(Newfoundland)の間のベルアイル海峡(the strait of Belle Isle)で最初の氷塊を観測。この海峡は英国コーンウォールとほぼ同緯度にある。
続いて、ラブラドル南端に至ると流氷で覆われた海が視界に入ってきた。ラブラドル沿岸を北へ向かって、これ以上進むことは不可能だった。そこで我々は、デービス海峡(Davis Strait)を横切ってグリーンランドまで700海里の航海をするための準備を進めた。
ラブラドルを夜明けとともに出港したことで、氷のない海面で航行する時間を長く取ることができた。この航海初日、私たちは流氷群の南端がプロットされた位置よりかなり南にあることに気づき、その周囲を回避した。日が暮れる前に、我々は流氷監視用の電灯を装備した。
(次回へ続く)
バウに装備した鉄鋼板により砕氷能力に長けた〈インテグリティ〉。流氷に舫(もや)いをとってしばしの休息をとる
ウィル・スターリング氏のHP
Stirling and Son
(文・写真=ウィル・スターリング 翻訳=矢部洋一)
text & photos by Will Stirling, translation by Yoichi Yabe
※関連記事は月刊『Kazi』2024年12月号に掲載。バックナンバーおよび電子版をぜひ