AC日記04-7|アメリカズカップのレース艇比較研究、序章①

2024.08.03

8月29日に予選シリーズであるルイ・ヴィトン カップがいよいよ開幕する、第37回アメリカズカップ。 正式採用艇のAC75の進水が各チーム進む中、それぞれの船型についてプロセーラー西村一広さんの分析を紹介する。

横から見たハル形状、前から見た船底の造形、そしてアームフォイルと船尾形状。世界最先端の技術が注ぎ込まれた、各チームの開発競争についての考察をぜひ。

 

※本稿は月刊『Kazi』2024年7月号に掲載された内容を再集録して公開します。(編集部)

※メインカット写真|photo by job vermeulen|バルセロナ沖を翼走(フォイリング)するイネオス・ブリタニア(左)とエミレーツ・チームニュージーランド(右)

 

初めてアメリカズカップを現場で観て以来約30年、その間、ニッポンチャレンジのセーリングチームに選抜されるなどしながら、日本のアメリカズカップ挑戦の意義を考察し続けるプロセーラー西村一広氏による、アメリカズカップ考。新時代のアメリカズカップ情報を、できるだけ正確に、技術的側面も踏まえて、分かりやすく解説していただく。(編集部) 

 

実物の防衛艇を検分しにNZへ

この記事を書いている現在は、ゴールデンウイーク真っ只中。ヨット絡みの仕事をしている身として、ありがたいことに連日大忙しの日々。そしてさらに、この連休が明けた翌日からは、ちょっと長いニュージーランド出張に出る。

出張先のNZでは、第37回アメリカズカップ(以下、AC)決戦の地バルセロナに移動する直前の王者エミレーツ・チームニュージーランド(以下、ETNZ)の、オークランドでの最終トレーニングの様子を、本来の出張目的の仕事のついでにのぞき見するつもりだけど、現地でこの記事に携わることができる時間はない。

それなのでGW中のいま、夜の時間を使ってこの記事を書き、第37回AC有力チームの新型レース艇を詳しく紹介しようと思っていたのだが、それにはどうしても時間がない。情報も足りない。というわけで、その本編は次回でみっちりと書くことにして、今回はその「序章」として、現在すでにセーリングを始めている4隻の新艇を写真で比較しながら紹介する。なお、このページの情報の出典は第37回ACの公式HPで、そこにはもっと詳しい分析が述べられています。以上、長い言い訳でした。ごきげんよう。

 

【帆走(フォイリング)、3艇の比較/真横から】

photo by Emirates Team New Zealand / America's Cup

左からアリンギ・レッドブルレーシング(スイス)、ルナロッサ・プラダ・ピレリ(イタリア)、そして防衛者ETNZ(ニュージーランド)。アリンギの船体、特にバウのボリュームは、秋のバルセロナに押し寄せる大きなうねりに対応したのだと言われている。 しかしAC予選は、微風が多いとされている夏に行われる。ルナロッサとETNZは、ルーツが同じデザインソフトと性能解析ソフトを使っている。2チームともフォイルウイングとフォイルアームは第1世代AC75ルールの短いものを装着してテストしている

 

【船首船底、4艇の比較/正面下から】

photo by Emirates Team New Zealand / America's Cup

ルナロッサ(左から2艇目)の痩せたバウセクションとかなりアグレッシブに細いバッスルが目立つ。それと対照的に、イネオス(右端)の丸みを帯びたふくよかなバウと少し前時代的に太いバッスルも際立っている。 単なる印象でしかないが、若く際立った才能を持つ2人のヘルムスマンを起用するであろうルナロッサと、偉大なレジェンドセーラー2人がステアリングするイネオスの違いがここに表現されているようにも思える

 

【フォイルウイングとフォイルアーム、3艇の比較/真横から】

photo by Emirates Team New Zealand / America's Cup

3チームのフォイルウイングとフォイルアーム。新型と旧型のフォイルの違いを見てみよう。前回の第36回ACに出場し、そのチームでデザインした第1世代のルールに適合したフォイルを所有しているチームは、テスト時にはそのフォイルを使うことが許されているため、ETNZ(中央)とルナロッサ(右端)は旧型フォイルを装着している。アリンギ(左端)の新型フォイルは左右で異なり、とても複雑な形をしている。第1世代のAC75では不可能だった風速6kt強でフォイリングに入る様子が目撃されたという

 

【船尾船底、4艇の比較/真横から】

photo by Emirates Team New Zealand / America's Cup

4チームの船尾船底写真。アリンギ(左上)を除く3艇は、ベースが共通のデザイン/解析/シミュレーション・ツールを使っているが、船尾付近でのバッスルの深さと厚み、後端処理の考え方などにそれぞれ違いが出ていて、とても興味深い。ルナロッサ(左下)の船尾が横方向に緩くカーブしているのを例外として、他の3隻全ては完全に平たい船底形状を選択している

 

(文=西村一広)

 

アメリカズカップのレース艇比較研究、序章②に続きます!

 

※本記事は月刊『Kazi』2024年7月号に掲載されたものです。バックナンバーおよび電子版をぜひ

 

2024年Kazi 7月号の購入はコチラから 

アマゾンで買う!

 

西村一広
Kazu Nishimura

小笠原レース優勝。トランスパック外国艇部門優勝。シドニー~ホバート総合3位。ジャパンカップ優勝。マッチレース全日本優勝。J/24全日本マッチレース優勝。110ftトリマランによる太平洋横断スピード記録樹立。第28回、第30回アメリカズカップ挑戦キャンペーン。ポリネシア伝統型セーリングカヌー〈ホクレア〉によるインド洋横断など、多彩なセーリング歴を持つプロセーラー。コンパスコース代表取締役。一般社団法人うみすばる理事長。日本セーリング連盟アメリカズカップ委員会委員。マークセットボットジャパン代表。

 


あわせて読みたい!

●AC日記04-5② | 第37回アメリカズカップ AC75ビルダーたちの横顔

●AC日記04-④|アメリカズカップ AC40クラス、初の個人オーナー艇成約

●月刊『Kazi』2024年7月号|特集は「島々を巡る冒険/その夏、僕たちは最高の思い出を手に入れる」

 


ヨットレース

ヨットレース の記事をもっと読む