【短期集中連載】マリンの仕事⑦|最速の船造りへの挑戦|ボートデザイナー

2024.03.11

より遠くに、より快適に、より速く──人々を乗せて海を走るボートやヨットは、それぞれ多様な理想を持って設計されています。
そうした理想の船造りを実現するためには、専門的で非常に高度な知識と、船を造り出すための環境が必要になるそうです。

今回は私たちがこよなく愛するフネを生み出す、ボートデザイナーという仕事について紹介します。

 

2024年『Kazi』1月号の特集「海で働く」では、マリン業界の中からいくつかの職種を紹介しました。その内容を再編し、「マリンの仕事」シリーズとして舵オンラインで公開します!

 

 

シリーズの記事はコチラから!

マリンの仕事①|充実した海の休日を演出|マリーナスタッフ

マリンの仕事②|頼れる商品知識と品揃え|マリンショップ

マリンの仕事③|セーリングのスペシャリスト|プロセーラー

マリンの仕事④|最高の海着をユーザーに|ウエア代理店

マリンの仕事⑤|世界の海で信頼される製品を|舶用電子機器メーカー

マリンの仕事⑥|人の成長を導く航海に|帆船クルー

マリンの仕事⑦|最速の船造りへの挑戦|ボートデザイナー

マリンの仕事⑧|お客さまの愛艇を届ける|輸入艇ディーラー

マリンの仕事⑨|世界で戦うセールを作る|セールメーカー

 


マリンの仕事⑦|ボートデザイナー
金井亮浩さん/ACT

 

葉山のACTオフィスにて、ハイパフォーマンスボートであるK36侍のCAD(※)画面を操作する金井亮浩さん

※CAD(Computer-Aided Design または Computer-Assisted Drafting):コンピューターを用いた製図システム。呼称は「キャド」

 

船造りというロマン 最速の船をこの手で

「自分が設計した船でアメリカズカップに挑戦したい、これが私がボートデザインを始めたきっかけです」と話す金井亮浩さん。

世界のヨットレースの最高峰であるアメリカズカップに、日本チームが挑戦した1995年と2000年のニッポンチャレンジ(以下、ニッチャレ)。金井さんはこのプロジェクトにボート設計スタッフとして参加し、そこからボートデザイナーとしての人生を歩むことになった。

 

「元々アメリカズカップには憧れがあり、1993年の最初のニッチャレのクルー選考に応募もしていたんです。ただアメリカの大学に留学する時期が重なってしまい、この選考を受けることができませんでした。一旦は諦めていた世界だったのですが、第2回のニッチャレのボート設計で当時私が専攻していたCFD(※)技術が必要とされて、この世界に参加することになりました」

※CFD(Computational Fluid Dynamics): 流体の運動をコンピューター上で観察する数値解析・シミュレーション手法。数値流体力学

 

2000年を最後に解散したニッチャレだが、それ以降も金井さんはイギリスチームのアメリカズカップ挑戦などに技術スタッフとして参加。最先端のレース艇の設計を通して、ボートデザインで世界に挑戦するために経験を積んできた。

 

「私はやっぱり"速い"ヨットが好きで、速さを突き詰めた船を造りたい。その実現には、そうした船を求めてくださるオーナーとの出会い、モールドを造るための資金調達、造船所の選択など、多くの関門があります。そのすべてを乗り越えてヨットが進水した際には、言葉にできない達成感を味わうことができます」

 

 

2000年のアメリカズカップに挑んだ、金井さんがリーダーとなり設計したニッポンチャレンジ艇〈阿修羅〉(写真手前)。世界を相手にしても性能で引けを取ることはなかった

 

5艇が進水したK36侍。写真は〈ラッキーレディX〉。36ftのハイパフォーマンスボートによるスクラッチレースを実現させた

 

写真はTSUJIDO RACINGと協力して開発したスナイプ級「スナイプACT / TSUJIDO RACING」。舵を取るのはTSUJIDO RACING代表の大井祐一さん(下記に写真、説明あり)。2011年にACTが辻堂加工と協力して開発したスナイプ級が大きく普及して以来、ワンデザインディンギーの設計でも活躍を続ける

 

ボートデザイナーという仕事をするために必要なことは何なのだろうか。この問を投げかけると金井さんは熱く答えてくれた。

「まずは造船に関する知識を持っていることは前提条件です。加えて、その人がヨットを設計する上での強みとなる、専門的な知識が求められると思います。私の場合それがCFDでした。ただ、実際に必要なことは知識だけではありません。まず、ボートデザイナーという仕事には、ボートを造れる環境が必要です。だから私は、国内に造船所を増やすための取り組みを続けてきました」

 

レーシングヨットの建造が盛んな海外で、ボートデザイナーとしてのキャリアを積むという選択肢も金井さんにはあったという。
それでも国内で活動することを選んだのは、日本のボートビルディングシーンを盛り上げるためだった。

「現在、ディンギーではTSUJIDO RACING、キールボートではKADOという新たな造船所が生まれ、これからの国内のボートビルディングにも可能性が見えてきています。こうして環境が整ってくれば、日本からも多くの優秀なデザイナーが出てくると思うんです。そして再び、日本チームが設計した船でアメリカズカップに挑戦したい。それが私の目標です」

 

日本が誇るボートデザイナーが描く壮大な未来。そんな未来で活躍するボートデザイナーたちが登場することを願うばかりだ。

 

1966年生まれ。スタンフォード大学大学院航空宇宙工学専攻、東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻。日本、イギリスの技術スタッフとしてアメリカズカップに3度挑戦

 

 

1985年生まれ、千葉県出身。「世界で勝てる船」を造ることを目標に、2020年にTSUJIDO RACINGを立ち上げ、金井さんと協力して最新艇の開発に取り組んでいる。全日本スナイプ級選手権で2度優勝するなどトップセーラーとしても活躍中

 

 

造船知識とは別に、そのデザイナーの武器となる高度な専門的知識が要求されるほか、建造を実現するためには行動力も必要となる

 

(問)ACT
神奈川県鎌倉市大町4-13-21
TEL: 0467-37-5639
https://www.actechnology.co.jp/

 

(文・写真=川野純平/舵社 写真提供=ACT)

 

※本記事は月刊『Kazi』2024年1月号に掲載されたものです。バックナンバーおよび電子版をぜひ

 

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