アラスカの夏、グレイシャーベイ国立公園/北西航路を走破した43フィート木造ヨット〈インテグリティ〉の余話(2)

2026.06.08

真夏のアラスカ、 グレイシャーベイ国立公園に錨を降ろした木造船〈インテグリティ〉。カナダのルネンバーグからアラスカのノームへ至る、氷河に閉ざされた6,000マイルに及ぶ北西航路を走破した堅牢なセールボートである。英国プリマスのボートビルダー、ウィル・スターリングが自設計、建造したデッキ長43フィートの木造カッターだ。その模様は、月刊『Kazi』誌2024年8月号~2025年4月号掲載され話題を呼んだ。今回はそのアナザーストーリー。アラスカの海から氷河へ上陸、テントをたて、ビバークを開始した(編集部)。

◆メインカット
photo by Will Stirling | グレイシャーベイ国立公園に〈インテグリティ〉をアンカリングし氷河の世界へ。氷河の上にテントを張った

 

前回の話はコチラ

 

【短期集中連載】北西航路を走破した43フィート木造ヨット〈インテグリティ〉の大航海
①北西航路の歴史
②砕氷帆船の建造
③アイスランドでの5年間
④冒険の準備
⑤ルネンバーグからグリーンランドへ
⑥最初の夜間航海
⑦グリーンランドの野生動物たち
⑧悪魔の親指で過ごした1週間
⑨129人が失踪した湾
⑩陰鬱なる“飢餓湾”
⑪冒険の果てに広がったオーロラの世界

 


アリューシャン列島へのアプローチでフォールス・パス(False Pass)を抜けると、眼前にシシャルディン山(Mt. Shishaldin)の雄姿が現れた

 


十分に大きな流氷に〈インテグリティ〉を接舷し、流氷に乗ってみる。ここで食事をすると決めたクルーもいた

 


アイシー湾にアンカリングし、氷河旅行へ出発。登山のスペシャリストでもあるクルーの先導で、セント・エリアス山(Mt. Saint Elias)を登頂した

 


氷河と尾根が連なる、美しいアラスカの山々

 


プリンス・ウィリアム海峡(Prince William Sound)のアイシー湾(Icy Bay)の夕景。まだ流氷がちらほらと見える

 

グレイシャーベイ国立公園

私たちはアラスカ半島西岸の山々に近づくために、さまざまな試みをした。干満が大きく潮の流れの速い湾に錨を下ろしたが、それは眼前の頭上に美しい円錐形をした火山、シシャルディン山(Mt. Shishaldin)がそびえていることを知っていたからだった。私たちは日暮れまでずっとデッキに座って霧深い景色を眺めた。寝酒(ナイトキャップ)の配給が終わると、皆はベッドに潜り込んだが、私はばかなことに、舵柄(ティラー)を一方にいっぱいに切って、グロメットに結んでいた。こうしておけばコクピットが広々として動きやすくなるからだ。  

ところが夜の間にわれわれの船は強い潮流によって斜めに流され、岩だらけの浅瀬の上を、錨を引きずりながら、まだ見ぬ陸地に向かって接近していることに気づいた。寝酒を手に、パジャマ姿でデッキ上を右往左往して、ヘッドトーチ(ヘッテン)を点けて船縁の外を見て、何が起きているのか状況を把握するまでに数分がかかった。まずは、ティラーを止めていた索をグロメットから外した。それによってラダーは自然と中央に戻り、クルーを含めて全てが落ち着いた。ぐっすりと眠りに入ったのはその後のことだった。  

次の一番近い安全な泊地は、その名もアイシー湾(Icy Bay)だった。その湾にはセント・エリアス山(Mt. St. Elias)がそびえている。特徴あるその山頂が、夕暮れ時の高い雲の切れ間からその姿を現した。アイシー湾の南で、私たちは巨大なオヒョウをもらった。それは4人の空腹のクルーたちの大皿4食分を賄ったほどの大きさだった。オーロラが空を彩る中、私たちは上げ潮に乗って一気にグレイシャーベイ国立公園へと向かった。

たくさんの島々と海峡によって太平洋のうねりから隔離され、神経を尖らせることなく航海できるという、これまでとまったく違った種類の船旅を私たちはとても楽しんだ。この船には鍛えられた、経験豊富な登山チームが乗っている。急峻な斜面を登る際のペースは相当厳しくなることが予想された。 ある晩のこと、良い泊地を選び、はやる気持ちを抱きつつ前進していると、大佐が私たちの船を川の柔らかい岸辺に座礁させてしまった。

(次回に続く。翻訳/矢部洋一)

 


〈Integrity〉Data
デッキ長:43フィート
水線長:37フィート 
喫水:7.6フィート
メインセール:675平方フィート

 

 

(文・写真=ウィル・スターリング 翻訳=矢部洋一)
 text & photos by Will Stirling, translation by Yoichi Yabe

※関連記事は月刊『Kazi』2026年2月号に掲載。バックナンバーおよび電子版をぜひ

 

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