アラスカ、ケナイ半島からジュノーへ/北西航路を走破した43フィート木造ヨット〈インテグリティ〉の余話(3)

2026.06.11

氷河に閉ざされた6,000マイルに及ぶ北西航路を走破した堅牢な木造セールボート〈インテグリティ〉。その後、一行はアラスカ・ノーム港を発ち、フォールパスを抜けてジュノーを目指す。英国プリマスのボートビルダー、ウィル・スターリングが自設計、建造したデッキ長43フィートの木造カッターの大冒険。月刊『Kazi』2024年8月号~2025年4月号掲載され話題を呼んだ航海記の余話。アラスカ南東部のジュノーを目指した(編集部)。

◆メインカット
photo by Will Stirling | 今回の航海の目的地のひとつ、ケナイ半島(Kenai Peninsula)の静かな入り江。夏の訪れを感じせる穏やかな気候であった

 

前回の話はコチラ

 

【短期集中連載】北西航路を走破した43フィート木造ヨット〈インテグリティ〉の大航海
①北西航路の歴史
②砕氷帆船の建造
③アイスランドでの5年間
④冒険の準備
⑤ルネンバーグからグリーンランドへ
⑥最初の夜間航海
⑦グリーンランドの野生動物たち
⑧悪魔の親指で過ごした1週間
⑨129人が失踪した湾
⑩陰鬱なる“飢餓湾”
⑪冒険の果てに広がったオーロラの世界

 

〈Integrity〉Data
デッキ長:43フィート
水線長:37フィート 
喫水:7.6フィート
メインセール:675平方フィート

 

 

〈インテグリティ〉のキャビンクルーの誕生日会。奥に見えるのは石炭ストーブ

 

緑生い茂る、7月のアラスカ。しかし、下草は、雪山へのアプローチで突破困難な障壁として残っていた。山岳ガイドであり、高校の地理教師を務めた経験があるダンの先導で、私たちは氷河を目指した

 

グレイシャーベイ(Glacier Bay)にやってきた、私の家族たち。左から、サラ、アリー、エマ・スターリング。〈インテグリティ〉でファミリー・クルーズを楽しんだ

 

アラスカ航路の終演

全ての成功は疑いなくチーム全員の努力の賜だが、どんな状況であれ、船上での全てのミスについての責任は、それが意思決定の誤り、あるいはコミュニケーションの欠如や、計画の不備によるものであれ、船長に帰する。一瞬、自分が舵を取っていなくてよかったとは思ったが、そのいたずらっぽい喜びをうまく表現はできなかった。私たちは潮が満ちてくるのを待つ間に、翌朝の早朝出発に備えて登山の準備を始めた。

「淡々と始め、スマートに終わらせる」がリュックサックのパッキングの鉄則だった。

驚いたことに、などと言うのは失礼極まりないのだが、飛行機恐怖症で船にも弱い私の母が、78 歳にして姉と妻とともに地球の裏側まで飛んで来て、グレイシャーベイで私たちと合流し、〈インテグリティ〉に1週間乗船したのだ。母は、双眼鏡でクマを観察し、ラッコに驚嘆し、クジラに感嘆し、氷河の先端に登って、おそらくは数千年も前に凍った氷の上で、融け出した水で喉を潤すことを楽しんだ。

だが、そういう時にはしばしば相殺という力が働くようだ。今回の場合は、ジュノー(Juneau)へ向かう途中の海峡の一つで予想外の強い風が吹き、〈インテグリティ〉はシングルリーフのメインセールとジブ(No.2)を張った状態で、これまでの最高速度である10ノット超を記録した。その間、彼女は船内で横になっていた。体調は悪くないものの、先ほどまでの活気や元気は明らかに失われていた。ところが、次の岬を回った先に広がっていた穏やかな海と、クジラの出現が、彼女の気分を一瞬にしてすっかり回復させてくれたのであった。

〈インテグリティ〉は2026年夏にアラスカから日本に向けて出航する予定だ。われわれのチームへの参加に興味のある方は、メールで私、ウィル・スターリングにご連絡ください。 will@stirlingandson.co.uk (翻訳/矢部洋一)

 

グレイシャーベイからジュノー(Juneau)へ渡るレグ、10kt超で快走する〈インテグリティ〉。日本への寄港は2026年夏以降を予定

 

(文・写真=ウィル・スターリング 翻訳=矢部洋一)
 text & photos by Will Stirling, translation by Yoichi Yabe

※関連記事は月刊『Kazi』2026年2月号に掲載。バックナンバーおよび電子版をぜひ

 

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